H62 わわわ 「立花さん、ストップ。話がループしてます」 「だってー」 佐藤が制止すると、男子高校生Dと押し問答を繰り返していた立花は不貞腐れて黙った。 階段の踊り場に移動してきてから数分。携帯を盗んだか盗んでいないかという最初の話題から代わっていない。 「えーと、ナカムラダイスケ君?」 「おまっ、人のカバン勝手に開けんなっ!」 足元に置いていたはずのナカムラダイスケ君のカバンはいつのまにか竹下の手元にあった。 「ゴメン、ゴメン。名前を知りたかっただけだから、中身には興味ないから大丈夫」 竹下はそう言ってカバンを投げて返す。 「なかなか達筆だね。名前書いてくれたの親御さん?」 「だったらなんだよ?」 「気にかけてくれる人が居るっていいよね。と言う訳でタバコは見なかったことにして捨ててあげる」 竹下の笑顔と供に握りつぶされたタバコの箱と同じように、ナカムラダイスケ君の顔もグシャリと歪む。 「クソッ、何なんだよ。オレは携帯拾っただけだろ?」 「そうなの?」 「そうだって、さっきから言ってるだろうが」 「嘘だぁー、あんたうちの学校じゃ無いじゃん」 「ハァ?意味分かんね、バス通りのビデオ屋の横にコンビニの。あそこの駐車場に落ちてたんだよ」 話に割って入ってきた立花にナカムラダイスケ君はうんざりりた顔をするが、立花の金切り声は止まない。 「そんあ分けないでしょぉ?私がお昼休みに使ってその後、学校でなくなったの。コンビニなんか行ってないし、 あんた達みたいに授業抜けたり出来ないのうちの学校はっ!」 「知るかよ…」 「でも、それならうちの学校に他校生が入るのも同じくらい大変じゃないですか?」 「あ…」 佐藤の一言で立花は固まった。 制服を着た生徒の中に違う格好をした同年代の者が居れば嫌でも目立つ。 「ジュン、あっちに持って行って」 「うー」 隅の方に自動販売機が設置されている。 佐藤は頷くと、何か呻いている立花をそちらへズルズルと引っ張って連れて行った。 「さて、あの人にまた付き合わされたくなければサクサク答えてね」 「ああ」 佐藤が渡したジュースを一気飲みして咳き込む立花をチラリと見て、ナカムラダイスケ君は素直に頷く。 「携帯を拾ったのはコンビニとして、いつ何時頃に拾ったの?」 「多分、火曜。時間は夜だったけど9時は過ぎてたか」 立花が携帯を無くしたと騒いでいたのが月曜日の夕方。時間的にはおかしくはない。 「まあ、携帯を拾ったとして、何で後生大事に持ってたわけ?止められたら使いもんにならんでしょ」 「あー、それな、今流行ってんだよ、携帯集めんのが」 携帯withストラップ携帯、そんな馬鹿な。 「それ、何?儲かるの?」 「らしい」 適当に話を繋いでみたが、当たりだったらしい。 「それは初耳だ。具体的な利用法は?」 「ばっか、こういうのは他の奴らに広まったら儲かんねぇだろ」 「だよねぇ…もしかして、君も知らない?」 「そんなの関係ねぇよ、まずは集めりゃいいんだよ」 「そっかー、元手あっての物種って言うもんね」 「そうそう、口だけの奴は信用ならねぇって」 「じゃあ、ナカムラ君ラスト。最初にその話をし出した人教えてくれる?」 「は?」 調子よく答えていたナカムラ君は黙り込んで思い出しているようだが、首を捻るばかりで答えは出ない。 「思い出せないなら、オトモダチに聞いてみたら?」 「…つーか、それは関係ないだろ。教える必要ねーし」 「別に他にも持ってそうな携帯を横から盗ったり、どっかにちくったりする気はないけど、興味本位? 教えてくれれば邪魔しないよ」 つまりは教えなければ邪魔すると言うことだ。 その意が伝わったらしく、しぶしぶナカムラ君は自分の携帯を取り出す。 「あ、オトモダチには無事逃げたって言ったほうがいいと思うよ」 いけしゃあしゃあと横で聞き耳を立てる竹下の物言いに呆れて、ナカムラ君は竹下を退ける気にもならなかった。 「分かんねぇ…」 「はぁ?そんな訳ないでしょ、ハゲッ!」 ジュースを飲み終えて復活した立花は、ナカムラ君が電話を終えるなり罵声を浴びせた。 「キーキーうっせぇな。皆、言うことバラバラだしよ、いちいち覚えてるわけねぇだろ」 「ふーん、で?ナカムラ君は誰が言い出したと思う?」 「早川の奴だと思ったんだけどアイツはオレだって言うし、先輩に聞いたとか言ってた奴も居るけど、っあー」 結局、誰が言い出したことなのか分からない。 「仕方ないね。じゃあ、お疲れ」 「勝手に終わらせないでよ!?」 「だって、学校から持ち出した人は別みたいだし、いつまでもこうしててもねぇ」 「でも、こいつパックってたじゃん」 「警察に連れて行ってみる?たぶん裁判所通さないと何もならないと思うけど」 「おいっ!」 包み隠さずと言うか、深く考えずにペラペラ話たというのにそれは止めてほしい。 「もぉー、いいもん犯人見つけてやるっ!現場百回っ!」 立花はバカーっ!と叫びながら階段を駆け下りて行く。 「立花さん荷物…」 「どこ行ったんだ…」 残された三人は呆然とするしかなかった。