H53 わわわ 佐藤が本屋を出ると、じゃれ合いながら大声で笑う高校生達が通り過ぎていく。 元気だなぁ、と彼らを見て自身も高校生に成りたてだというのに思う。 これでは、年寄りじみていると言われても仕方が無いかもしれない。 しかし、それなりに人が行きかう場所でランダムに走り回り、物を投げあわれると邪魔だ。 とは言え階段がある方向に彼らが居るのだから避けようがない、さっさと通り過ぎてしまうのがいいだろう。 「…」 「すいませーん、それ拾って」 佐藤は早足で通り過ぎようとしたが、彼らが投げあっていた携帯が後頭部に見事にぶつかった。 かわかわれてぶつけられたのか、彼らより背が頭一つ分高かったせいかは相手がずっとヘラヘラ笑っているのでよく分からない。 とりあえず足元に落ちた携帯を拾おうとしたが、付いているストラップにすごく見覚えがある。 拾った携帯を開いてみたが画面が真っ黒で、充電が切れているようだ。 「何、人の勝手に見てんだよ」 「貴方の?」 「はぁ?」 「電池切れてる」 「電源切ってたら悪いかよ」 「電源…」 携帯の電源って簡単に切ったり入れたり出来るものだったのか。 携帯を購入して数ヶ月、電池を抜いて電源を落としていた佐藤には新事実だった。 分厚い説明書を前にして、初期設定を妹に任せっきりにしたことを少し後悔する。 そして困ったことに、後悔しようが懺悔しようが中身を確認したいのに電源の入れ方が分からない。 「おいっ!」 「ちょっと待ってください」 取り上げられそうになった携帯を右手に掲げ、庇いながらボタンを片っ端から押していくが電源が入らない。 「ふざけんな」 「痛っ」 言うことを聞かない佐藤にいいかげん痺れを切らした相手が佐藤を蹴り飛ばす。 弁慶の泣き所に見事に当たった容赦ない蹴りは、涙目で蹲るくらいに痛い。 「何すんのよっ!」 「いっ、てぇ」 「…」 いきなり現れた立花は思いっきり通学鞄を振り下ろした。腰に不意打ちを食らった相手は佐藤に対面するように蹲る。 辞書が詰め込まれた古めかしい昔からの硬い通学鞄で殴られればそれはそれは痛いだろう。 「佐藤君、大丈夫?」 「こ、コレ」 「あっーあー!私のっ!」 立花が叫ぶとそれまで成り行きを遠巻きに見てゲラゲラ笑っていた高校生ABCが急に静かになる。 ―男子高校生ABCはにげだした! ―男子高校生Dはにげだそうとしている! ―しかし、ズボンのずそをふまれてにげだせない! ―このままではパンツがみえてしまう!腰パン高校生はこんらんした! 携帯の電源を入れて―携帯のボタンを長押しして―、中身を確認する立花に佐藤が尋ねる。 「立花さんのですか?」 「これ私のだよ、ほらっ!何で?カツアゲされてたんじゃないの!?」 「えっと」 「ちょっと目立つんで階段の踊り場に行きませんか御二方。御三方か、君もほら立って。付いて来ないと下げるよ?」 通りの端とは言え立花が騒いでいる上に、足元に男三人しゃがみ込んでいる性で目立っている。 学校に通報でもされたら面倒この上ない。 「あーもー、行こ」 そそくさと鞄を拾って立花は階段を下りてゆく。 腰骨から下にずり下がったズボンを竹下に後ろから掴まれて、男子高校生Dもノロノロ付いて行った。