E60 寿  インテリアが動いた。  私より少し高い位置にあった少女の頭が沈みこむ。  インテリアこと血まみれ少年ソウキチクン(椅子つき)のタックルが、見事自称吸血鬼の少女を押し倒す事に成功したのだった。  依然切羽詰まった状況なのだけれど、どうも私には余計な事を考える癖があるらしい。  どうでもいい事なのだが、インテリアと形容していた少年は部屋から体半分以上飛び出ていたのだ。  インテリア、卒業。  うわー、本当にどうでもよかった何考えてるんだこんな時に。ああ、後悔してる場合でもない。  今私がとるべき行動は何だ?  元インテリアが振り向き、必死の形相を向ける。 「逃げりっ!」  それだ。意識が体に戻るような感触がした。頭を鈍器で潰されるわけにはいかない。確信と同時に体が走り出していた。  噛んだ事を突っ込んでいる場合ではもちろん無い。 考えろ私。次にとるべき行動は? その次にとるべき行動は? 迅速に、かつ正確に。考えろ! 息が切れてきたところで立ち止まり、振り返った。  まだ追ってこないようだった。 業務連絡用に預かった携帯電話を取り出した。  私が血まみれ少年を発見した単なる通行人なら、迷わず110番だ。他に選択肢は無いと言ってもいい。 けれど、非正規とはいえ私は雇われであり目的は情報入手、のための手駒となる事だ。おそらく。 110番が仕事に支障をきたす恐れがある。警察を呼ぶべきか否か。それを確認する必要がある。 ボタン操作をして電話をかけるという動作がとてもじれったいものに感じられた。発信先は雇い主だ。 「助けて下さい」と言ったソウキチクンの声が脳裏にちらつく。 おかしいな。私はヒーローよりむしろ悪役が好きだったはずなのに、どうも今は血まみれ少年を助けた方がいいんじゃないかと思ってるようなのだった。 5回コールして出なかったら警察に通報しよう、と決めて3回コール音がなったところで我が上司の「はいもしもし」。 ちょっとハラハラしつつ状況を説明した。 「警察、呼んでいいですか?」 「…仕方ないね。あんまり警察は好きじゃないんだけど」 やはり警察に追われるような事をしてるのだろうか、この人は。でも好き嫌いを言っているところではないだろう。 「では」と電話を切ろうとしたのだが、 「あ、待って!」 …なんでしょう? 「その子、草吉君、見失わないで。貴重な情報源だから。事が終わった後で事情を話してもらう。情報分、バイト代に上乗せするよ。場合によっては、君が拷問してくれて構わない」 …他人ながら同情する。彼は本当にお気の毒な立場にあるらしい。  私は彼を助けにいくのではなく、あくまで保護しに行くのだった。 通話を切って、今度は110番。 「(かくかくしかじか)」 そして情報源を確保すべく、逃げてきた道を戻りだす。 ――丸腰じゃ不安だな。 武器は持っていないのだ。何かかわりになるものはないか、とキョロキョロしたが、諺というのは役に立つものだ。 灯台もと暗し、だ。  ジーンズに通してあるベルトを外す。 使えない事も無い、ハズ、だ。