E42 寿 どうやらピッキングと一口に言っても色々あるらしかった。イメージ通りの針金や工具を使って錠内のピンを跳ね上げていくもの(鍵の構造は知らなかったけど)をはじめ、ドアの裏にあるつまみを回してしまうとか、シリンダーカバーとやらを引っ張って隙間にゴニョゴニョ…とか。 あ、当然ながら正当な理由の無いピッキングは犯罪なので、「ヨシ、やってみよう!」とか思わないよーに。 …とまあ、問題も含め色々あるピッキングなのだけど、私がやる事になったのはバンピングと呼ばれる手法だ。 「なんぞソレは」と、至って自然な反応をした私を園崎さんは笑ったが、そんなもん知ってるのはマニアか関係者くらいだと思うね。 簡単に説明すると、バンプキーなるものを鍵に突っ込んで、ポンと叩いてクルッと回してしまう、という、まさに簡単な方法なのだった。 「そんなんで開くワケ無いだろ(笑)」 なんて疑いつつ、ボロ事務所のシリンダー錠にキーを突っ込み、ポンと叩いて(略)ーしてみたら、あっけなく開いてしまった。  肩透かしをくらった気分だった。 なんじゃこりゃ。  こんなに簡単に開いちゃダメでしょーよ。 つーか、危ないんじゃないか?  ……。 自宅が心配になったけれど、大丈夫。ウチには金が無い。有る人には見つかりやすい所に金目のモノを置かないことを推奨。 とはいえ、鍵を開けられるというのは、悪くない気分だった。 お隣りの佐藤さん宅にも、鈴木さん宅にも、侵入できます。世界が広がったね。 そんなこんなで、園崎さん指定のターゲットに到着……住所、合ってるよな…。 割と年季の入った木造の建物の一室だ。階段や壁が黒くくすんでいるのが見受けられる。 中に住人がいると大変なので、旧式のインターホンを鳴らしてみる。 ピン、ポン、という割と渇いた音が聞こえた。 「佐藤さーん」と呼びかけてみる。 もちろんここは佐藤さん宅ではなく、人が出たら、間違えましたー、と、逃げるつもりだった。 「居ないんですかー?」 むしろ居ないで欲しいのだけど。 「………」、と、どうやら留守な事を確認後、例の作業にかかった。 はい、クルっとポン。 ドアがギイと音を立てる。 見た目通り、広くはない部屋だ。 ヒトの住む気配が無い、というのは、こんな状態を指すのだろう。 盗聴器は、固定の電話機、もしくはコンセントのソケット内に仕込むのが良いとの事だった。 「電話機は、無さそうだから…コンセント、コンセント…」 独り言。 「おぉ、あった」 無事、任務成功か、なんてホッと一息つきたいところだったが、余計なものが目に入ってしまった。 部屋の隅に、人が倒れていた。 若い男…学生だろうか。 不法侵入した部屋に人がいるだけで、もうそれなりの恐怖だ。 血まみれだったりしたら、なおさらだ。 生きてんのかコレ?つーか、死んでんのか?こういう時って、救急車?盗聴器.jpgコンセント.jpg逃走.jpgか? いや、画像ファイルじゃないだろ… 今思えば、パニック状態とゆーヤツだった。 ――――――――――――― ナナメ読み補助な登場人物紹介 ユカ…就職浪人19才。バイト中。ピッキング可。140cm。 園崎(仮)…雇い主。情報ソース。